3月にはイギリスのクラフト大会と言う、世界最大のドッグ・ショウが開催される。今回私達は始めて見学の機会を得た。もう5年ほど前に、一度見学のための日程を組み、航空券の手配などもしていたのに、残念な事に口蹄疫病の流行により、その年のクラフト大会は延期となってしまったのだった。代わりに私達は8月に開催されるBDCのクラブ大会を見学し、その和気藹々とした雰囲気に魅了され、スペイン・ダルクラブ創立の決意を固めたのだった。
毎年200頭ほどのダルメシアンがエントリーされると聞いていたので、久しぶりにそれだけの数を見られる事が、まず何よりの楽しみだった。フランスやベルギー・オランダ、そしてBDCのクラブ大会でも120頭前後だし、ワールド大会でもやはりそのくらいだった。バルセロナで開催されたヨーロッパ大会は70〜80頭だったように思う。200頭となると一体どんななのか、ちょっと想像し難い。
3月と言えばバルセロナはちょうど春の気配が濃厚で、私たちが出発する時は23度ほどにもなっていた。ロンドンまでわずか2時間程度、着いてみれば4度と言う寒さ。バルセロナの真冬の最低気温に近い。クラフト大会が開催されるのはバーミンガムと言う、イギリス第2の都市、ロンドンから車で1時間弱の所だ。スペインからすればイギリスは距離移動が小さい。バーミンガムから30キロ程離れた大学都市にいる息子と落ち合い、一緒に大会見学に行くことに。完璧な通訳付きで心強い。
大会は4日間に渡って開催され、今回はダルメシアンの所属するUtilityとToyグループは、大会3日目の土曜日に開催される。まず会場へ行き着くまでに車の長蛇の列、駐車場へ着くまでが大変だ。駐車場から会場まで巡回バスが出ているが、歩いていく事に。約10分ほどの距離。会場に着くと切符とカタログ、ショウガイドを買い、そこからダルのリングがある第1ホール第1リングへ。またもや10分以上会場内で移動だ。とにかく広い。ホールは5つあり、リングはメインリングやアジリティ等を除き、35もある。
まずショウガイド、これはクラフト大会の歴史や、歴代BISの記録、会場案内、スタンド広告などが主なもの。1891年から始まったクラフト大会だが、BISは1928年から選ばれることになったそうで、われらがダルは1968年にBIS (CH.FANHILL FAUNE)に選ばれた事がある。そしてクラフト大会のカタログも、私たちが普段見慣れているものとはちょっと違っている。まず、各犬種毎にエントリーした順に名前が列挙されており、クラス分けになっていない。たとえば今回BOBに選ばれたダルのを見てみると、こんな具合だ。
14818 CH.DVOJICA VOODOO B.08.03.04 Br. Exh, CH.DOCTOR FOX BY SALSUSA – HAITHS PRIMA DONNA AT DVOJICA. Cl.1952
まず、14818と言うのがエントリーナンバー。続いて血統書名、ブリーダー名、ただしExhとあるのは出陳者と同じという事で、つまり自分のところのダルを自分でプレゼする、オーナーブリーダー、という事。そして両親の血統書名。最期のClはクラス分けを表す。各クラスごとにクラスを示すナンバーが振り当てられている。
今回14768から始まっているダルは14983まで、215頭のエントリーになる。この名前の列挙の次にクラス分けがされており、最初がオスである。まずはVeteranから始まり、続いてSpecial Puppy(6ヶ月〜12ヶ月)、Supecial Junior(6ヶ月〜18ヶ月)、Yearling(12ヶ月〜24ヶ月)、Post Graduate(CCを持たない、もしくはチャンピオンシップ大会でPost Graduate以上のクラスにおける1位を5回以上獲得していないもの)、Mid Limit(CCが3つ以下、もしくはチャンピオンシップ大会でMid Limit以上のクラスにおける1位を5回以上獲得していないもの)、Limit(3人の異なった審査員によるCCを3つもたないもの、もしくはチャンピオンシップ大会でLimit以上のクラスにおける1位を7回以上獲得していないもの)、Open(以上のクラスの条件を満たし、かつショウに出陳するに相応しいもの)、最期はGood Citizenとなっている。イギリス特有のクラス分けであり、最初は戸惑ってしまう。特にGood Citizen(良き市民)?? これは施設を訪問したり、社会的な活動を行っている犬に対する功労賞のようなものらしく、クラフト大会のみにあるクラスとの事。BDCの主催するオープン大会では、クラスはもっと細かく分かれている。最もこのクラス分け、カタログには確かに数字の小さいものから名前が書かれているが、リンクの中は入ったもの順の様であって、このナンバー通りには並んでいないので、番号と名前と照らし合わせ確認しなくてはいけない。
朝8時30分から開始、全くの休み無くオス(86頭)、メス(120頭)全ての審査が、一人の審査員によって進められる。リングには柵が一切無く、見学者用の椅子によって囲まれており、BDCとNOEDCのクラブスタンドが小さく出ている。主人公の犬たちはリング横に設置されているベンチと呼ばれる所に待機。これは木製の壁で仕分けられているだけで、天井も無ければ蓋も無い。出陳者はここに荷物を置き、犬を入れたり自分が腰掛けたり。その中にケージを入れている人もいる。そこから自分たちの出番が来ると静かに集まりリングの中へ。吠える犬もいなければ唸る犬もいない、みんなとても紳士的だ。パピーやヤングクラスになると、もうこれは幼稚園か遊園地の様相を呈する。隣の仔とジャンピングして遊ぶ仔、ごろごろ転がって愛嬌を振りまく仔、椅子席に来て見学者に撫でてもらおうとする仔。本当に微笑ましい。オスは7頭、メスが12頭、これだけの数のパピーを同じリンクで見る事が出来るのも、クラフトなればこそ。でもいざとなると綺麗にスティ、さすがである。
Post Graduateクラス辺りからは、年齢に関係なくなってくるし、それぞれ大会に出てそれなりの成績を収め始めているので見ごたえがある。Openクラスとなれば、これは通常のChampionクラスを意味する。4年前から規制が緩和され、外国からの出陳も可能になった。その最初のBOBがSponik’s Special Selectionだったが、今回オスのOpenにその息子のGwynmor Over Lord(ランやマツの父親)も初参加しており、久しぶりの対面。
今回の審査員Mrs. F. Hartleyは、非常に精力的な感じで審査を進める。1匹1匹丁寧に触診、そしてリングをしっかり走らせる。イギリスでは走った際の動きの美しさというのが重要視されると言われているが、やはり普段の運動によって正しい筋肉の付き方をしている仔は、ゆったりとした歩幅で優雅に走る。走りにタメが効いているので、ゆっくり走っても美しい。だが筋肉の付いていない仔は、ゆっくり走ると一目瞭然で違いが判る。中には他のハンドラーとのリズムを無視して、早く走らせて誤魔化そうとするハンドラーも見かけるが、一般的な大会ならまだしも、クラフトの様にダル専門の審査員が相手では、そういう誤魔化しはあまり効かない。今回クラフト全体を見て感じた事は、審査員の好みにも拠るのだろうが、全体に小型な仔が選ばれている気がした。また審査員がNOEDCの会員だという事もあって、BDCよりはそちらのクラブの人たちが多く出ていた気がする。普段あまり聞きなれないケンネル名が多かった。そして一時期ほどにはレバーが出陳していないようだ。
イギリスの大会を見て感じる事は、ハンドラーはほとんど女性であり、ごく普通の生活を営んでいる人たちだという事だ。家庭を守る一家の女主人が、家族として犬を世話し育て、そして自分の犬との生活を楽しむと言う延長線上に、ショウへの参加がある。幾つかのクラスに出陳しているあるご夫妻は、足が不自由ながら奥さんがプレゼをされるのだが、リンクを走る折にはご主人がさっとリンクに入って来られる。そして走った後はまた奥さんにバトンタッチ。セレクトされて残されると、また再びリンクを走る事になるが、その時も何処から走り始める事になっても大丈夫な様に、ご主人はリンクの外を移動して待機しておられる。夫婦愛や人間愛といった事にまで思いを馳せさせてくれる、しみじみとした深みがある。
リンクを囲む椅子席にずっと座って見学していた私たちの所にも、何匹ものダルが懐っこく擦り寄ってきた。15〜25頭と出陳数の多いクラスになると2回に分けて審査が行われるのだが、待機している間はハンドラー(ほとんどがオーナー)共々、ダルたちも非常にリラックスしている。性格をある程度ここで推し量る事が出来る。各クラスの最優秀が選ばれる度に暖かな拍手が送られ、キングやクィーンを決定する際もとても静かだ。全ての審査が終わり、BOBが決まったのは夕方の5時半、9時間の長い大会は始まりと同じく、和やかな微笑のうちに終わった。この雰囲気を味わうだけでも、クラフトを見学に来る価値は充分にある。
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Date: 2006/04/07()
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